京都の中心に現れたサードプレイス

市役所前広場の新たな可能性

市役所前にひろがる新たな光景「小さな芝生広場の実験」

ここは京都市中京区の河原町御池。毎月第3金曜日、京都市役所前広場はその姿を少し変えて、人々で賑わう憩いの場となっています。
今回は、その賑わいづくりに動きだした京都市役所の職員と、その想いに共感し、さまざまなサポートを行う当金庫QUESTIONのコミュニティマネージャーの取組をご紹介します。

「小さな芝生広場の実験」

現在の京都市役所本庁舎は2017年に改修工事に着工し、2021年に工事が完了。「『市民のための市役所』として開かれた庁舎」を一つのコンセプトにしてリニューアルしました。

そんな新庁舎。休日には市役所前広場でイベントが開催されるなど、市民の憩いの場として機能することが期待されていました。しかしながら、実際にはコロナ禍の影響もあり、十分な有効活用ができておらず、「市民にとってまだまだ身近な空間とはいえないのではないか」という想いを持つ市職員もおられました。

そんな状況を変えようと京都市役所の職員である河井 杏子さん・植田 協さんが中心となり、市役所前広場のさらなる活用を目指して現在取り組んでいるのが「小さな芝生広場の実験」と名付けられたプロジェクト。
このプロジェクトは、これまで以上に地域住民の皆さまが市庁舎に愛着を持ちながら日常的に使ってもらうことや、家でもなく会社や学校でもない場所(=サードプレイス)の存在によって創造的な動きが生まれ、まち全体がより良くなっていくことを目指して実践されています。

キッチンカーが並び、ランチを楽しむ人も
その日出会った人同士が広場でやってみたいことを共有

「市役所前広場」をもっと市民に開かれた場所に

このプロジェクトの発起人である河井さん(京都市 都市計画局 まち再生・創造推進室)が、このような「サードプレイス」づくりに取り組まれたのは、家や職場、学校といった日常生活の場から一歩踏み出し、非日常の場で多様な意見や考え方に触れることが、創造性や包括性の源泉となるのではと考えられたからです。
そのような考えのもと河井さんが所属する都市計画局 まち再生・創造推進室の担当者とアイデアを出し合ったところ、ある実験を行うことに。それは、自分たちのもっとも身近な公共空間である「市役所前広場」をこれまで以上に市民に開かれた場所として活用するということでした。

ところがこの構想を実行に移そうとしたところ、市役所前広場が公的な施設であるがゆえの課題にぶつかります。それは、広場にはルールや禁止事項が多く、新しいことにチャレンジしにくいという現状です。
しかし河井さんはあきらめることなく、この課題は、小さな実験を重ねることで少しずつ解決していけるのではないかと考えました。

河井さんは当時をふりかえって「はじめはキッチンカーを呼んだり、広場に芝生を敷いて自由に過ごせる場所を設えたりといった小さな実験からスタートしました。広場に来た人たちが一緒になって『この広場でどんなことをしたいか』を話し合う場をつくったところ、次の開催時にはその想いが実現しているという面白い変化が起こっているんです」と話します。

プロジェクトの経緯や今後の展望を話す河井さん(中央)

広場の新しい活用方法を市民と模索

「小さな芝生広場の実験」は、回を追うごとに参加者が増え、市民と市役所職員がお互いに広場のルールを見つめ直しながら、毎月新たなチャレンジが生まれています。

このプロジェクトの中心メンバーである植田さん(行財政局 総務部 庁舎管理課)の所属する部署は、建物の維持管理の一方で、庁舎の有効活用や賑わいづくり、市民の方々がもっと市役所に親しんでもらえるようにすることを自身のミッションとしてお持ちです。

建物の維持管理とは、その建物の価値を維持したり、長く利用するために設備の老朽化・劣化を防ぐことが基本とされるなかで、植田さんは「禁止事項やルールをただ押し付けるのではなく、利用者に対して説明を行い、課題意識などについてきちんと理解をしてもらったうえで、どのような広場の活用方法が考えられるのかを利用者と一緒に模索することがあるべき姿だと考えています」と話します。

実際に広場でくつろぎながら、利用者の方々とコミュニケーションをとる植田さん

マッチングを重ね、コンテンツはどんどん充実

そんな河井さん、植田さんが取り組まれる「小さな芝生広場の実験」プロジェクトに転機が訪れたのは2023年11月のこと。当金庫QUESTIONの川上が市役所を訪れた際、お二人から、この市役所前広場の活用に関する取組の経緯や想いを伺ったのがきっかけでした。

お二人のお話を聞き、「京都のまちをより良くしたい」という想いはQUESTIONの活動やミッションに共通するものだと感じた川上。当金庫のQUESTIONと京都市役所本庁舎は河原町御池の交差点を挟んだ斜め向かいに位置しており、以前からこの位置関係を活かしたいと考えていたことから、この広場の実験をきっかけに両者は協力関係の強化に動き出しました。

川上はQUESTIONの持つ地域事業者とのネットワークを活かし、市役所と広場を盛り上げてくれる事業者を次々につないでいきました。
駄菓子を扱う事業者や子どもが楽しめる遊具を提供いただける事業者、イベント参加者が自由に意見交換できる場をつくるファシリテーターなどに協力を仰ぎました。さらに、広場内で飲食が楽しめるよう近隣の飲食店にお弁当やスイーツの出張販売を依頼するなど、広場のコンテンツづくりに奔走しました。

川上の支援や河井さん、植田さんの働きかけによりコンテンツはどんどん充実していき、回を重ねる度にイベント開催時の市役所前広場の利用者は増加していきました。

市役所へ足を運び、担当者のお二人とミーティングを行う川上

QUESTION×京都市役所でまちをゆたかに

「小さな芝生広場の実験」は今後もさまざまな人々との協働や実験を通じて、まちのサードプレイスづくりにチャレンジしていきます。毎月第3金曜日(17時頃~20時頃)に開催されていますので、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

農地ではなく街中の空きスペースを利用して行う都市型農業「アーバンファーミング」を実践
誰でも自由に弾けるストリートピアノの設置
京都精華大学の学生によるアート作品の展示


お客さまの声

京都市
河井 杏子さん

市役所前広場は、建築家武田五一先生の監修による荘厳な本庁舎を背に、見上げれば青空が広がる、京都のまちの真ん中にありながらぽっかりと開けた場所です。私はこの場所が、人々の日常に寄り添い、また多様な振る舞いを包み込んでいくような優しい場所になってほしいと思っています。
京都市内には、日常の「よりどころ」になるような公共空間が非常に少ないと感じるため、市役所前広場での実験を通して、偶発的な出会いや交流から新しい活動や価値が生まれるような場所が、市内のあちこちで生まれるようなムーブメントにつなげていきたいと考えています。
我々行政の使命は「つなぐ」ことですが、行政ができることにはどうしても限界があり視野も狭くなりがちです。しかし、QUESTIONと協働することによってこの限界を突破できると信じています。パブリックマインドを持つ組織や個人がゆるやかにつながりながら、寛容で創造的な場所を創ることを、これからもQUESTIONと共に追求させていただきたいです。


京都市
植田 協さん

今回の実験を契機に、市庁舎前広場という公共空間がより様々な用途で使われ、市民の方など様々な人がこの広場や市庁舎に愛着を持つきっかけになれば嬉しいです。そして、そんな市庁舎で働く市職員と市民の距離が近くなり、市政をより身近に感じていただき、京都市のことをもっとみんなで考えられるようになれば良いなと思います。
そんな、いろんな人が知恵を出し合って課題を解決していく大切さを教えてくださったのがQUESTIONの川上さんでした。「広場であれやりたい」という一見難しそうなアイデアも、すぐに川上さんが思いつく方に連絡をとってくださり、もう次の実験の際には実現したりしていて、そういった信頼関係を様々な方と構築されているのが本当にすごいなと思いました。
京都市にも様々な課題がありますが、自分たちだけではできないことも、みんなで今回の実験のようなことを少しずつ積み上げていくことで、もっといい街に変わっていけると思います。


職員の声

コミュニティ・バンク京信
川上 哲典

京都市役所前広場を多様な方が交わることが日常となるような場にしたい、地域のチャレンジしたい人を応援する場にしたいとの想いに共感しました。

QUESTIONも多様な人が交わる場となり、想いに共感する人をつなぐことや、新しいことにチャレンジする人を応援することをミッションにしており、京都にそのような場が増えることは私たちにとっても本当に価値のあるものだと感じたからです。

京都市役所様とQUESTIONの位置関係は河原町御池の交差点を挟んで向かいに位置しており、こんな近くに京都をより良くしたいと思う仲間がいて一緒に活動できることは本当に楽しいです。双方の間で人が行き来しながら新しいつながりを育んだり、チャレンジを応援してもらえることが日常になれば良いなと感じながら取り組んでいます。

QUESTION-地域の「問い」を解決 その他の事例 PROJECTO METHOD